シンポジウムセッション4「ケアとコミュニティ」への質問回答
Session4「ケアとコミュニティー分け合い、分かり合うコミュニティをつくる」を終えて
ケアの概念は、近年医療や介護の分野から他分野にも広がりをみせ、更新されています。セッション4の3組の事例からは、鑑賞コミュニケーターたちの「ケアする/される」を超えた関係性によって醸成されてきた活動が紹介されました。
ミテ・ハナソウ佐倉からは、相手の話をよくきこうとするコミュニケーターのあり方によって、高齢者が次第に自分の考えを話すようになっていったことや、コミュニケーター同士が異なる価値観も受け入れ合うことができるようになっていったこと。アートわっか・すぎなみからは、子どもたちの学びや対話に対する思いを共有することでコミュニケーター同士が親しくなり、活動自体が自分の生活の中で大切なものになっていること。アートユニット・カナカナからは、チームの仲間とだけでなく、参加者ともじっくり考える体験や価値を握り合いたい気持ちをもって活動を続けていることなどが語られました。
そうした実践を続けられるのは、鑑賞コミュニケーターが自分の活動に対する愛着を持っていたり、社会的な価値を見出しているからこそですが、モデレーターの稲庭さんからは、それは「信じるに値するケア」(広井良典著『ケアを問いなおす<深層の時間>と高齢化社会』より引用)と感じているからではないか、と投げかけられました。また、アーツ×ダイアローグにおける作品が「バウンダリーオブジェクト」として機能し、対話の中で共同的な主観を培うことができるのもケア的な態度につながる大きな要因となっているとの指摘がなされました。(近藤)
概要:各地で活躍する鑑賞コミュニケーター達は日々活動を自らブラッシュアップさせ、ときに新たに活動を生み出しています。社会的な実践を続け、活動を創造するコミュニティはどのように営なまれているのか、重要なファクターであるケアとその意味を考えます。
登壇者:アートユニット カナ・カナ(村上英子・近藤貴美子)、アートわっか・すぎなみ(島田聖子)、ミテ・ハナソウ佐倉(小川綾乃・飯野隆行)、近藤乃梨子(ARDAコーディネーター)、モデレーター:稲庭彩和子(国立美術館本部 主任研究員)
質問への回答
Q1:介護施設での活動について質問です。介護職員の方々、ミテハナさんのように高齢者の方々と対話ができるようになった具体的なポイントがあればお聞きしたいです。またアートカードの効果的な活用方法があればお聞きしたいです。
職員の方には、初めはサポートとして参加し、ミテ*ハナさんが「どこからそう思うのですか?」と参加者が作品の中に見出した価値観や考え方について聞き返しながら丁寧に話をきく様子を隣で見守ってもらいました。ミテ*ハナさんのきき方によって、これまで見ることのなかった高齢者の一面を見れたといいます。そうやって一人一人についてもっと聞いてみたい、話してもらいたいという気持ちから、ミテ*ハナさんの真似をしてみたそうです。もともと職員の方々は、利用者の様子をよくみて、心を向けながらお仕事をされていると思うので、自然な流れの中で作品を通した対話が生まれていったようです。(ミテ・ハナソウ 紹介ページ)
アートカードはゲーム感覚で気軽に触れることができ、手に取って持つことで「私の作品」という愛着を持って語れるツールでもあります。お題を出して、それに合うと思うカードをそれぞれに選ぶと、その人の個性がみえることもあります。ミテ・ハナソウ・カードには、使うシーンに合わせて考えられた遊び方ガイドが付属しているので、そういった冊子を参考にしてみるのもおすすめです(ミテ・ハナソウカードは佐倉市立美術館で貸し出ししています)。(近藤)