NPO法人ARDA
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鑑賞コミュニケータの紹介①/カフェをアートと地域の人をつなげるアートセンターへ

対話で美術鑑賞 2024年10月15日

左端で指をさしているのが森久さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ARDAの対話型鑑賞ファシリテータ養成講座を修了した鑑賞コミュニケータの活躍をご紹介します。今回ご紹介するのは、埼玉県上尾市でカフェを営む18期生の森久憲生(もりひさ のりお)さん。森久さんは自身が経営するカフェを、自称「上尾アートセンター」と位置づけ、月替わりでアーティストの作品を店内で展示するほか、毎月対話型鑑賞会を開催するなど、カフェを通じて文化芸術に触れる機会を発信し、地域の関係性が広がり人々が集まる場になることを目指しています。

カフェで朝活 コーヒー片手に対話型鑑賞

北上尾駅から徒歩数分の住宅街にあるおしゃれなカフェ「SUTTENDO COFFEE(ステンドコーヒー)」が森久さんのお店です。この日は「朝活×対話型鑑賞」というイベントが開催されました。土曜日の朝、まずはカウンターでゆっくりと美味しいコーヒーを飲みながら、他の参加者の方や森久さんと楽しくお喋り。からだもこころもほぐれたところで、「そろそろ作品見ます?」という掛け声のもと、隣の壁に掛けられた作品に目を移し、鑑賞会がスタートしました。

「お花の花火みたい!全体的に動きを感じる」

「真ん中のぐるぐるは、人間の腸みたい。なんでこんな描き方をしたんだろう?」

「ピンクの花と同じ形がいくつもあって、青色や灰色のものもある」

他にも、サンドイッチみたい!腸詰?白菜にも見えるなぁ。アート鑑賞でこんな感想言っていいの?とためらっちゃうようなことも、なぜか今日はするりと言えちゃいます。

精神科医療のアプローチとして注目されるオープンダイアローグなどの対話の場では、とにかく話し続けることが大事で、話し続けることで「変化」が生まれてくるといいますが、まさにその通り!気づいたこと、思ったことをそのまま言葉にしていると、あるとき「点」と「点」がつながって、「あ!」っと新しい発見につながったり、見方がぐっと深まる瞬間がおとずれます。

対話の後半では、芽吹くもの、花咲くもの、命を終えるもの…。生きるものも死んだものも同じ地平で存在する世界の有り様をみんなで感じることができました。

アート鑑賞を進行するためのスキル(技術)はいくつもありますが、スキルは何かしらの本質や目的を表現するもの。そして進行役が果たすべき本質的な役割は「安心して話せる・みんなで考える場をつくること」ではないでしょうか。コーヒー片手にリラックスしてお喋りできる雰囲気が醸成されていたこと、進行役の森久さんも考える一員として場にかかわったことが功を奏し、そうした役割を見事に実現させていました。

「楽しいお喋り」と「作品鑑賞」がこんなに一体化した場は稀有。カフェでの鑑賞会は「最高のアイスブレイク」と「最高の場づくり」、二つを同時に叶えるものだと実感しました。

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずやってみる、の精神で

森久さんが対話型鑑賞ファシリテータ養成講座を受講しようと決めたのは、店内で月替わりのアート展示を始めようと決めたときのこと。アートを見て何をどんな風に語ればいいか、自分自身が分からなかったためで、その糸口を掴みたいと考えたからだそうです。

はじめは自分で進行役をするつもりは無かったといいますが、同期の勉強会の幹事を引き受け、仲間とコツコツ1年間学び続けた経験から、新年度のアート展示をスタートする際、「自分で鑑賞会をやってみよう!」と開催を決断したのだそう。しかもやるならアーティストに平等を期するため、「全ての展示」で「毎月」行うことにしました。

とりあえずやってみる、をモットーに現在も試行錯誤が続いています。「朝活」と銘打ったのも地域の方に気軽に参加してもらうため。

月替わりのアート展示をみて、地域の方が新築の家に飾るために4点も作品を購入してくれたり、常連の社長さんが作品展示の数か月後に「あの作品どうなった?」と購入を決断してくれたり、地域密着でアートに触れる機会をつくる取り組みは着実に成果を上げています。最近の鑑賞会では、同じ志を持つ地元の仲間に出会うこともできたのだそう。

森久さんの取り組みが上尾の地域にどのような波紋を広げていくか、今後のゆくえが楽しみです。

 

こぼれ話:「上尾アートセンター」と「上尾ビエンナーレ」

自称「上尾アートセンター」で行われる月替わりのアート展示(「喫茶芸術領域構築展」と呼ぶそうです)は、森久さん主催・企画の「上尾ビエンナーレ」と「上尾トリエンナーレ」という芸術祭の枠組みの中で開催されています。というのも、コロナ禍でさいたま国際芸術祭が中断した際、市民サポーターとして活動していた森久さんは、仲間と共にネット配信によって「air=架空」で芸術祭を続行させた経験から、カフェでアートの展示を始める際、自らアートセンターを名乗り、芸術祭を自分で開催することを思いついたからだそうです。

「来年は上尾ビエンナーレとトリエンナーレが、同時に来るからヤバいんすよ」と、森久さんは楽しそうに語ります。

 

 

 

 

 

 

上尾アートセンター
 https://www.instagram.com/ageoartcenter/