講座の中で対話型音楽鑑賞を開発。 イメージや実感を伴った豊かな作品体験へ。
講座の中で対話型音楽鑑賞を開発。
イメージや実感を伴った豊かな作品体験へ。
森 文子さん(ミューザ川崎シンフォニーホール )
鑑賞ファシリテーター養成講座1期受講
ミューザ川崎シンフォニーホール(以下ミューザ)にて、企画と教育普及などを担当されている森 文子(もり ふみこ)さん。森さんの発案により「対話型音楽鑑賞」が講座の中で開発されました。森さんの対話型音楽鑑賞は、ARDAとの協働で、港区主催の音楽鑑賞教室に展開されるなど、クラシック音楽業界でも注目されています。音楽の対話型鑑賞はどのように生まれ、そこではどんなことが起こっているのか、お話を伺いました。
Q1:社会人講座を受講したきっかけは何ですか?
音楽の教育普及といえば、楽器の体験や仕組みの説明がほとんどで、「作品」を味わうためのワークショップはあまりありません。しかし、楽器を演奏することと作品を「聴く」ことは別の体験です。ワークショップ自体がいくら楽しくても、コンサートで音楽を聴く動機にはなかなか結びつかないのではと考えていました。ある時、美術には対話型鑑賞があることを知り、音楽に応用できるのではないかと考え、まずは学んでみようと思いました。
Q2:音楽の対話型鑑賞は、どのような工夫で作られていったのでしょうか?
音楽が美術と異なるのは、対象を見続けられないことです。音楽はどんどん流れて終わっていってしまいます。では、どうやったらみんなでイメージを共有しながら聴けるか。イメージの共有方法を、講座の受講中に、講師や仲間の協力を得ながら模索しました。講座の最後に実施する、自分が選んだ作品を題材にファシリテーションを行う課題の中で、作品の一部を短く抜粋して聴く方法や、ホワイトボードに発言やイメージを板書して視覚的に共有しながら対話する方法などを見出しました。
Q3:具体的にどのようなワークショップをしているのでしょうか?
例えばミューザでは、小学生や中学生が一般のお客さまを対象にコンサートやイベントを考え、制作するプログラ厶を行なっています。その中で、まずは子どもたちがテーマにする曲を深く理解するために対話型鑑賞を取り入れています。作品の特徴的な部分をいくつか聴き、どんなシーンだと思うか、みんなで対話をします。対話型鑑賞をやると、ただ曲を聴いたりあらすじを読むのとは違い、作品について「自分が何を感じたのか」、実感を伴った形で理解が深まります。「こういう曲なんだ」と腹落ちした上で、自分なりに掴んだ作品の魅力を伝えるため、プログラム作りを工夫する様子が見られます。
また、音楽家へ自由に質問しよう!といったプログラムを実施していたことがあるのですが、どんな質問でも大丈夫だと伝えても、以前はなかなか質問が出てきませんでした。ところが対話型鑑賞を挟むと、音楽についての質問が自然と出るようになり、対話型鑑賞は音楽そのものへの興味を引き出すと実感しています。
Q4:印象に残っているエピソードはありますか?
対話型鑑賞は、音楽に詳しい人もそうでない人も同様に作品と向き合えることが魅力の一つだと思います。「ダフニスとクロエ」というバレエ組曲の冒頭で対話型鑑賞をしたときのことです。この曲の冒頭は太陽が昇るシーンなのですが、ワークショップに参加した子どもは冒頭の部分を聴き、ジェットコースターが徐々に上がって走り出すみたいに聴こえたと言いました。同席していたスタッフがその後コンサートで曲を聴いたとき、想起するのは同じ砂漠の日の出でも、光景がよりリアルに、音楽がより鮮やかに、立体的に感じられたと感動していました。
日の出とジェットコースターでは視覚的イメージは異なりますが、何かがゆっくり昇り一気に躍動するような、身体に湧き起こる感覚や根っこに感じるものは同じです。音楽的な特徴を二人は別の角度から別の言葉で語っているのです。日の出とジェットコースターのように幅広いイメージが喚起されることは、具体的なものを見ることができない音楽だからこそ生じる面白さなのかもしれません。参加者同士が多様な意見を通じて作品の本質に触れられたとき、一見異なる意見でも共感し合えたときは嬉しくやりがいを感じます。