NPO法人ARDA
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鑑賞コミュニケーターの活動紹介②/「アートの街」前橋で、人とアートを繋ぐ

対話で美術鑑賞 2024年11月21日

こんにちは講座事務局の友恵です。
鑑賞ファシリテーター養成講座では修了後も学び続けるコミュニティづくりを支援しています。これまで独自に修了生の活動が始まったり、期を超えた交流も生まれてきました。今回は群馬周辺在中の松嶋宏晃さん(6期)と箱田みどりさん(3期)や、戸塚弘幸さん(5期)が活動する「対話型鑑賞ラボ」 のイベントを紹介します。この団体は、アーツ前橋や群馬県立近代美術館といった県内の美術施設 や中之条ビエンナーレといった芸術祭で対話型鑑賞のイベントを開催しています。

現代アートでまちづくりを進めている前橋市には、 2023年にギャラリーコンプレックス「まえばしガレリア」が誕生しました。松嶋さんたちはこれまでの実績をもとに、直接企画を持ちかけ、鑑賞会の定期開催しています。そこで、展覧会「path-connected (孤状連結)」( 2024年6月29日-8月24日) での対話型鑑賞会にお邪魔しました。

鑑賞会では、写真作品3点とインスタレーション2点を鑑賞しました。ヴィック・ムニーズの写真作品<Earth works>を箱田さんが、菅木志雄のインスタレーション<集空果>を松嶋さんが担当。

菅木志雄のインスタレーションには石とロープなど見慣れた自然素材が使われているのですが、ギャラリー空間に配置され、アートになった瞬間から、鑑賞者はその意味や関係性を見出し始めます。
「同じ石がひとつもない、全て違う形や模様だ。人それぞれの多様性示しているのか?」「石なのにロープに吊るされているようで重力がないようにも見える」「まるで空からロープが伸びているように見える」など、松嶋さんががテンポ良く意見を引き出していく中、参加者が作品を読み解こうとする「きっかけ」を作品の中に見つけようとするのが伝わってきます。そこにいる人全員で、熱く作品に挑んでいく雰囲気が生まれていました。
「石が人で天と繋がっている?自然の摂理を示しているのか?」、「いや、縛られている石は社会のルールや常識を示しているようで拘束されている人間とその関係を表しているのか?」「石が人間だとして、ロープは無意識につながっている人やものとの複雑な関係性に見えてきた。」など。このインスタレーションだからこそ、鑑賞者それぞれの世界との繋がりが語られる瞬間がありました。初対面にも関わらず、普段その方が大切にしていることに触れたような気持ちになりました。新たな人との出会いと同時に、作品に近づけたような鑑賞体験でした。

松嶋宏晃さんは、地元群馬県内だけでなく、佐倉市立美術館の鑑賞コミュニケーター「ミテ*ハナさ ん」としても活躍しています。

Q「対話型鑑賞ラボ」での活動の醍醐味は?
日本の現代アートの代表的ギャラリーが集まるまえばしガレリアでは、クオリティの高い現代アートを展示しています。まず、地元群馬県で先端的な現代アートに触れて対話する、貴重な機会をつくる喜びがあります。そして、参加者の皆さんがさまざまな意見を交わしあいながら、現代アート作品が持つ意味や存在意義などを思案することで、自然に新しいものの見方に触れることになる。ファシリテーターとして、毎回新鮮な驚きと喜びがあります。

初見では理解できなさそうな難解な作品を、参加者の皆さんと鑑賞するのがとても楽しいです。それぞれの視点が積み重なり、 1人では辿り着けないような解釈が見えてくることもあれば、同時代に生きるアーティストの視点を探っていくような時もある。わからないところから始め、みんなで意見を出 して、そのことを一緒に考えるプロセスがとても楽しいです。わからない作品こそ、対話が鑑賞の助けになると感じることが多いです。

Q 対話型鑑賞と出会って、変化したと感じることはありますか?
特に何が変わったことがあるのか自分ではわからないのですが、人前で話すことに慣れたかな? (笑)。何より、アートという共通の興味を元に、さまざまな人と出会えることがとても楽しいです。 アートについて語り合っていると、その人を知ることへの近道になっているように感じることがあります。人と人との出会いが生まれやすいとも感じています。

アートで地域が盛り上がるには、人が集まり、アートを通した交流があってこそ。現代アートというわからないものを前 にしたからこそ、新しい視点が生まれ、人と人との出会いが生まれているようです。「対話型鑑賞ラボ」が地元の人や前橋を訪れた人に豊かな鑑賞体験を実現し、街づくりに貢献し ている様子を垣間見ることができました。

鑑賞会の後は、創業300年の歴史を誇る老舗旅館を再生した アートホテル「白井屋ホテル」と前橋アーツにも立ち寄り、丸一日かけて、前橋の現代アートを満喫しました!

(眞田友恵)

*「対話型鑑賞ラボ@群馬」https://www.instagram.com/taiwa.art.lab/

*鑑賞作品
Artist:菅木志雄
Title:<集空果 Accumulation of Void and Effects>
Year:2021
Medium: stone, rope
dimension variable